SWITCHインタビュー 達人達「松重豊×植野広生」[字]…の番組内容解析まとめ

出典:EPGの番組情報

SWITCHインタビュー 達人達「松重豊×植野広生」[字]

190センチ近い身長と変幻自在な演技で存在感を放つ俳優、松重豊。演じるドラマの主人公同様「食いしん坊」な彼にラブコールを送ったのは食雑誌の名物編集長、植野広生。

番組内容
植野が松重に招かれたのは神奈川県の撮影スタジオ。なぜか「料理人の格好で」と服装までリクエストされたがそのワケは…?冒頭から松重の芝居に乗せられつつも、次第に松重の表現・演技に対する考えや人生観が明かされていく。お返しに植野は浅草で70年余続く大衆食堂に松重を招く。単なるグルメ情報ではなく「普通においしい」のすごさを伝え続ける植野の思いに松重が迫る。秋の夜長ついお近くの食堂に行きたくなる「食」談義
出演者
【出演】俳優…松重豊,食雑誌編集長…植野広生,【語り】六角精児,平岩紙

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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  20. 番組

解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)

NHK
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エンスカイ(ENSKY)

何だ? それ。

その北條って女の遺体と俺と
何の関係があんだよ。

こんな こわもての役柄から…。

笑いよる場合じゃなかぞ!

ちょっと情けないけれど
かわいいおじさん役まで。

作品ごとに
がらりと姿を変える

変幻自在な俳優だ。

[ 心の声 ] これはいい。 これは やばい。

えび反る うまさ。

松重の代表作といえば こちら。

松重演じる主人公が
一人で飲食店を訪ねては

ただただ食べるという人気のドラマ。

[ 心の声 ] うわ~!

実在する町の大衆的な店を取り上げ

松重の食べっぷりで魅力を伝える。

そんな独自のスタンスが共感を呼び

放送開始から10年続く
長寿作品となっている。

ドラマを支えるのは

松重自身の食への尽きない興味。

なんと みずからスイーツを作るほどの
食いしん坊だ。

そんな松重に熱いラブコールを送ったのが
植野広生。

手がける雑誌は不況にあえぐ
出版業界の中で売り上げを伸ばしている。

用意… はい!

また テレビ番組にも出演。

町の食堂で料理を学び
みずから食べるという演出を通して

料理人の技や情熱を紹介している。

♬~

最近は コロナ禍にあえぐ飲食業を
応援する活動にも力を入れ

積極的に発信している。

♬~

この日 植野が松重に招かれたのは

神奈川県の撮影スタジオ。

服装もリクエストされたという。

今日は…

何ででしょうね?

一応 あの…
コックコートとエプロンというですね。

まあ 僕が 料理 作るときには
こういう格好で

本当にリアルにやってるんで
そのまま来てしまいました。

植野に 松重に会いたい訳を聞いてみた。

ぜひ ちょっと
お話ししたいと思いまして。

あれ…?

松重さん… あっ こんにちは!

植野と申します。

ああ どうも。

な… 何を食べてらっしゃるんですか?
はじめまして どうも!

はじめまして。
松重です。

一瞬 あの…

いやいや あの… これ 1月から…

題名がね…

…というのが
何か 始まるらしいんですよ。

どこかで聞いたようなタイトルですね…。

何か 聞いたことありますよね?

言っておくが
「孤高の井之頭食堂」なんてドラマはない。

僕 一応「植野食堂」の主人としてですね…。

ごめんなさい…!
いやいや…!

すっかり松重のペースに乗せられた植野。
この対談 どうなる…?

あっ そうなの? Eテレ?

♬~

そもそもですね 今日 あの…

料理人の格好をして来るようにっていう
指令を頂きまして。

なぜ 料理人の格好が
ご指定だったんですか?

本当に 植野さんと こうやって お話が
できる機会があるということで…。

僕はね 飲食で対抗するような場所も
自分のネットワークもないんで。

だとしたら スタジオの前 セットの前…。

こうやって 僕ら…

出番のないときは
こうやって スタジオの外にいて

こうやって 天気のいい日は こうやって
お話ししたりしてるんですね。

勝手な お願いなんですけども

まあ 食べ物に関して
僕 食べるほうじゃなくて

食べるほうじゃないんだぞっていう
アイコンでいくと

やっぱり こういう
コック服っていうのがあったんで。

今のお姿も そうですけど
最初にお会いしたときの こう…

シャツで おにぎり食べてるっていうのが
本当 料理人みたいな…。

違和感がないというかですね ここを
す~っと こう なじむというのがですね。

くしくも…

本当にね 現場中 さっきみたいな

くだらない小芝居ばっかり
やってるんですよ。

何か… ちょっと
トイレ行って帰ってきたら

何か 本当に この人… 何か
中華屋のおやじになってるとか

それで何か 炒め物 材料がないんだよ!
みたいな話で 何か こう…。

その場で どんどん どんどん
アドリブで入ってって。

そういう…

いいですね。
いいですっていうか

そういう こう…

そういうゲームが好きなので。
そういう「ごっこ」が。

そうですね。 その体で…

ぶちかまされましたね。

演技にリアリティーを求めてきた松重。

その代名詞といえば このドラマ。

[ 心の声 ] 腹が減るわけだ。

松重演じる主人公 井之頭五郎が
毎度 仕事の合間に一人で店に立ち寄り

食事を味わうというもの。

[ 心の声 ] これはいい。

その撮影現場をのぞいてみると…。

今日は よろしくお願いいたします。
≪どうも! ご苦労さまです。

通常のドラマ制作とは異なる手法が
取られていた。

撮影の合間に
松重が みずから

店の人たちに
取材をするのだ。

そして 感じたことを
脚本に その場で足していく。

こうして その店を 初めて訪れた客が

何を求め
どうふるまうかを考えることで

表現にリアリティーを与えている。

まあ 本当 長くやってらっしゃる
「孤独のグルメ」の

そのおいしさの伝え方とか

ああいうの すごい見ちゃうんですよね。
ああ…。

やっぱり 「おいしい」って
僕らも 雑誌を作っているので…

「孤独のグルメ」は ただ

おなか すかせた中年男の…
酒 飲めない中年男が

食べ物を探して 見つけて おいしかった
あるいは まずかったっていう…

これを 本当に ど正面から
エンターテインメントにしろって言われたら

僕は 無理だっていうふうに
思ったんですね。

だから 本当に これ 何も起きないし

ただ食べてるだけでいいんですか?
って言ったら

それで お願いしますっていうことで。

初めて行く店ですし そこで
おかみさんがいて ご主人がいて

あっ この店は こういう歴史で
このご夫婦が始められて…。

まあ 番組では この料理を出すけども

実は この料理に ものすごく
こだわりがあるんだなっていうのを

たぶん 撮影中の空き時間とかに
拾っていくんですね。

僕 おなか すかしてるんで ずっと。

で その間に
いろいろ 話を聞いていくうちに

台本に書かれたものよりも 何か こっち
おいしそうだよっていったら

それ 足そうか? みたいなノリが
どんどんできるような空気になってって。

それって 何か こう やっぱり…

食べて おいしいって感じたっていう。

この人は そう感じてるんだ
っていうことを見せることを

積み重ねていくことでしかないと
思ったので。

だから どう伝わるかっていうことを
逆に 考えちゃうと

おいしいって伝えようと思っちゃうと
たぶん 僕 駄目な…

駄目な…
ドラマとして よくありがちな

フィクションにしかならないと
思うんですよね。

僕 どっちかっていうと…

すべてのドラマが そうなんですけども

これ ドキュメンタリーじゃねえの?
本物の殺し合いじゃないの? って

思われるのが やっぱり 表現として
一番 面白いと言われるとこなんで。

自分が感じてることを見せることで

伝わるっていうことも
たぶん あるんでしょうね。

それを 僕 食だけじゃないんですけど…
言い方 ごめんなさい。

ああ~…。
あの食べてるときも

怒ったり 困ってるんじゃないけど
眉間に しわが ひゅっと こう

入ったりするんですよ。

[ 心の声 ] 弾力プリプリで 食べ応え 満点。

こう ちょっとした…
これは 何か 本当に こう…

舌先じゃなくて 胃の腑で感じるような
ぐぐっと うまい感じなんだとか。

何か これは ちょっと もしかして
辛いんじゃないかとか

いろんな妄想を… ごめんなさい
僕の楽しみとして

松重さんの眉間を
ずっと見てるんですけど。

昔 僕 ここに漢字の「風」っていう字が
出るって よく言われてたんですけど。

ここに あの… 何で
眉間に「風」が

あるんだろうと
思われてた…。

本当に こわもての役が
多かったんで

眉間に しわ寄せるシーン
っていうのは

よくやってたんですけども。

「孤独のグルメ」のようなもの
っていうのは

説明ぜりふ しゃべってる
ここに目がいかないんで

やっぱり 咀嚼してる口と
あとは ここから目の印象

例えば 本当に その眉間のしわから
感じられる味っていうのが…。

まあ 僕は あんまり
意図はしてないんですけども

そういうものが表現として
助かってるのかもしれないですね。

松重は 1982年

19歳で 地元 福岡を離れ 上京。

東京 下北沢の街を拠点に 大学で
演劇学を学びながら俳優を目指した。

かつて 下北沢の亭で
バイトされてましたよね?

そうです そうです。
あれ いつぐらいですか?

僕はね あの… 本当に 大学 入って
お芝居 すぐ始めちゃったんで

やっぱり もう…

下北のラーメン屋の亭という所で
働き始めて。

そこは 本当に 日払いだったんで
芝居があるときは休ませてくれるし

そういうので バンドマンと役者しか
いなかったんですけども

そこで 僕の体の… それから以降の…

あのころは中華漬けでしたね。

僕も たぶん… たぶんっていうか
同学年なんですけど。

そうなんですよね。
同学年で。

同じころ…

ええ~!?
で お昼 よく 亭に

食べに行ってたんですよ。
じゃあ 会ってますよ!

もしかしたら
会ってたかもしれないんですよ。

じゃあ 態度の悪いバイトですよ 俺ら。

態度の悪いバイト 何人かいたんで
よく分かんないんですけど…。

下北にいらしてた…。

当時 下北沢は
劇場やライブハウスが集まり

表現を志す若者たちの熱気が
渦巻いていた。

松重も その中の一人。

まあ 役者というか俳優というか
そういう表現者というか

その道を選んだっていうのは
なぜだったんですか?

しかたがなくですね。
しかたがなくですか。

本当に
下北でバイトしてるころとかは

ミュージシャンが
周りに いっぱいいましたし

ミュージシャンが やっぱり
女にモテるし かっこいいし

絶対 そっちのほうがいいよと
思ってたんですけど

楽器は弾けない 歌は下手だで…。

そんなね 役者として 何かを
やり遂げたいとかっていうことを

そのころ 思ったわけじゃない。
ただ でも…

それは ある意味 言い方 ちょっと
おかしいかもしれませんけども…

そういうものっていうものは
やっぱり…

それが 音楽じゃなく
演技 演劇っていうものに

置き換えられると思って…

あんた まだ 俺という人間が
分かってないようだな。

これは 松重が初出演した映画。

当時29歳。

サイコホラー作品で 連続殺人犯を演じた。

だったら もうやめて。 お願い。

あんたは
突然 俺の目の前に舞い降りてきた。

そのときから これが始まったんだ。

190cm近い長身を生かし
独特の存在感を放った松重。

この作品を機に
映像の仕事が舞い込み始めた。

帰ってきたんと違う。

その後
順調に仕事が増え

40代では
朝ドラにも出演。

生活も安定した。

しかし 内面では
これが自分のやりたかった表現なのか

葛藤があったという。

「結局 お前のしたいものは何?」って
言われて

「ロック… 俺はロックをしたいんだよ」
って言うんですけど…

やっぱ 音楽をやる…

いろんな環境で いろんな表現方法の中で
いろんな監督さんの中でやる

そのパートに
専念するっていうことだから。

…の居方をするんだなっていうことは
のちのち 分かって

失敗したなとは思いましたけどね。
ハハハ…! そうなんですね。

どうやって その葛藤を乗り越えたのか。

松重が見いだした答えは
去年発表した小説に書かれている。

40代のころの松重を投影した俳優が
主人公だ。

俳優は葛藤のさなか
暇つぶしに訪れた寺で仏像を見ていると

老人から こんな言葉をかけられる。

「空洞のなかみ」というですね 本を
あれを拝読して。

すごい面白い… 面白いって言ったら
あれですけど。

今後 どう取り組んでいけば
いいかっていうことに

やっぱり 自分なりに こう
悩んで悩んで 突き詰めて考えてって

そうやって 何か 自然に…
何か こう 自分の中で

見つけることができたというか

そんなに…

役を作るうえで 今後 俳優として
何かやるべきことは何ですかって

別に こだわらなくていいんじゃないの
っていう答えを 何となく 頂けたのは

禅寺に ちょっと
お話 聞きに行くようになったりして。

そっか 何もない時間っていうのは

すごく
大事だなとかって思うようになって

それ以降ですね。
うん…。

…っていうことのほうが
いいんじゃないかという。

空洞にしておいて そこへ 何でも
入れるようにしておくというふうに

おっしゃいましたけど
その空洞というのは 本当に 何にもない

ピュアな平地のようなものではなくて
松重さんの器があるからこそ そこに…。

そうなんですよね。
だから 器っていうのは まあ 本当に

中に何も入ってないにしろ かつて
何かが入ってた痕跡っていうのは

絶対に残ってるはずですし。

それによって やっぱり
器の大きさなり 器の強度っていうのも

たぶん 変わってきてると思うんで。

かつて あったものの痕跡

においだとか 例えば そういうものが
色とかが残ってて

空っぽにしたはずなんだけども

何か ついつい
出ちゃってるものっていうのは

その空洞の中には しかたがない
表現として出てきちゃう。

それは それでも ありかなとも思うし。

そういう…

…っていうふうには思うんですよね。

意識が変わったことによって 仕事も
変わったというような感じなんですか?

楽になりましたね。
思い詰めることがないですから。

こうやって コック服とか
中華料理屋さんの扮装をするという

そのときに
その中身の 僕の中の入れ物にも

ふと コックのあるものが入って
で スタジオに呼ばれたときには

「はい 中華のおじさんだよ」
っていう感じで 切り替われるというか。

よく言われるんですけども…

例えば そのコックさんとかでも

「俺は この最高の
ズッキーニとナスを使って

今日は
最高の料理を作るんだ」っつっても

「今日 全然 いいの ないんですよ」って
言われたら 「えっ?」って言って

「じゃあ できねえよ!」って言って
帰るタイプの役者か

「だったら 何か
じゃあ キュウリでいいですよ。

似たようなもんじゃないですか」
みたいな… 適当なこと言ってますけど。

そういうことで
やっちゃうっていうことのほうが

僕は 面白い…。

何か そういうことに やっぱり
そのハプニングに

常に感じておくっていうことが…

50代後半となった松重は 最近
俳優以外の活動にも力を入れている。

初めて 小説を含む著書を発表したほか…。

ラジオで音楽番組を開始。

なんと 自主制作の動画配信も行っている。

みずから ミュージシャンに声をかけ
朗読に曲をつけてもらうという企画だ。

「仕方無く荷物を引っぱり上げ、
背後の山門で雨をやり過ごそうと思った」。

♬「どしゃ降りを喰らった真っ昼間」

自分のしたかったことを
矢継ぎ早に 実現させている。

我々 同学年ということでですね
還暦も近いんですけど。 近いですね。

この先は どういうふうに
変化していくんですか?

それとも変化していかないんですか?
どうなんですか? この先は。

本当に ビジョンを語るだけの先は
ないと思ってるんで。

そうなんですか?
特に あの…

目標とか 持ってないんですよ 正直。

でも… ただ やれる時間は
短くなってきてるんで…

まあ 本当に これ 極端な話ですけど
やっぱり

ここで撮ってた「バイプレイヤーズ」
っていうのの 2回目のシーズンで

本当に目の前で
大杉 さんが

本当に 現場で
お亡くなりになって。

本当に
あっという間に

向こうに
連れ去られちゃったんで。

そういうのを
やっぱり 間近で…。

これだけ 「死」を扱って
僕らは

生きてるつもり
だったんですけども…

じゃあ できるだけ 自分の思いとか
やりたいことを

前倒し前倒し計画で…。
そうですね。

こういう自分を見たいとかじゃなくて
こういうものを もしかしたら

作りたかったんじゃないの?
っていうことが

自分の芝居以外で
何かあるのかもしれないですし。

どっちかっていうと…

自分の見たい
映画 ドラマ 表現 物語っていうのは

こういうことなんじゃないかな
っていうこと…。

本も ちょっと書くことができたんで
物語っていうものも

何か こう
次のクリエートする人たちに向けて

何か残せるものが… 残して

面白いって
言っていただけるようなものがあれば

いいかなっていう…。

その残り少ない時間を そういうふうに
有効に使おうと思ってます。

最後の質問になると思うんですけど

松重さんが 仕事とか…
オフィシャル プライベート関係なく

一番楽しいときって
何をしてるときですか?

実は 僕 1時間半
朝 毎日 散歩してるんですけども

その公園の中にいる時間が
僕 一番 好きなんですよ。

歩いてて 何にも考えてないときも
あるんですね。

あれ? もう
家 帰ってきちゃったってときもあるし

せりふ覚えてるときもあるし

今日 何やろうかなって
考えてるときもあるし。

それは 何かを考えるというよりも
考えないかもしれないし

考えるかもしれないという。
そうです そうです。

そこで…

今日も あの… キンモクセイが二度咲き
してるんですけど そのにおいと

銀杏の… 踏みしだかれた銀杏の
あのうんこ臭いにおいと

その両方を嗅ぎながら 「ここから
何を感じ取ればいいんだろう?

今日 何か インチキなこと
やってやりたいな。

おにぎり… おにぎり食いながら

今日は 何か
ドラマの撮影やってる体にしよう」とか

そういうくだらない妄想で。
すいません ご迷惑をおかけして…。

とんでもないです。
こちらこそ ありがとうございました。

ありがとうございました。

後半は 舞台をスイッチ。

植野が松重を招いたのは
東京 浅草。

仲見世通りを抜け 路地裏にある食堂で
植野が待っているというのだが…。

[ 心の声 ] 浅草 ここには
昔から うまい店が多い。

それにしても 腹が減った。

♬~

[ 心の声 ] うん。 よし。
入るしかないだろう。

ごめんください…。
はい。 あっ いらっしゃい。

1人なんですけど 今 やってますか?
お客さん 1人ですか? いいですよ。

どうぞ お好きなとこに。
お客さん 初めてですか?

初めてです。
今日はね そうですね ブリですね ブリ。

ブリ照り おすすめですけど。
あっ 今日ね

かまも入ってるんだ。 ブリかま。

塩焼きにします。 これも おすすめと。

あとね そうね 肉がよければね えっと

うちの肉豆腐は
牛すじ肉を煮込んでるんで

これ また うまいですよ。

そうですね。 まあ 一応 おすすめはね。
あっ あとね おしんこはね 今日はね

キュウリと カブと ナスもあります。
ここは お任せしたほうがよさそうだ。

じゃあ すみません。
それを ひとそろえ お願いします。

それを ひとそろえで 大丈夫ですか。

ありがとうございます!
どういうことなんですか これは…。

今日は ちょっと 僕がですね
そういう雰囲気で やっていただけたら

ちょっと うれしいなと思って。
すいません 何か もう

松重さんの前で こんな芝居をするなんて
人生最大の恥ずかしいことを

してるような気がします。
いや もう 立て板に水で…。

またしても即席の芝居に盛り上がる2人。

対談 始めますか…。

ここは 昭和25年に創業し
地元の人たちに愛されている食堂。

植野のお気に入りの店だ。

この浅草の水口食堂というのが
まあ 見てお分かりのとおり

本当にメニュー豊富な…。

食堂で ごはんも食べられるんですけど
酒も飲めるというですね…

お品書きを見てるだけで
すごく楽しいので。

店の人に聞いても
何品あるか分からなかったので

先日 ちょっと うちの雑誌でですね
全品 撮影しまして。

全部 頼んだんですか?
全部 撮ったんですよ。

そしたら 108皿あったんですよ。

煩悩の数だけありましてですね。
メニューの数というのは

煩悩と通じてるんですね。
そうですね。

はい よろしくお願いします。
では いただきます。

食の雑誌の名物編集長と呼ばれる植野。

手がける雑誌は 毎月およそ12万部を発行。

出版不況といわれる中
売り上げを伸ばしてきた。

単に 店の情報を紹介するのでなく

その店の歴史や料理に対する思いを
掘り下げた紙面作りが特徴だ。

店に足を運び 丁寧に取材することが
基本だという。

こうやって もう 植野さん
顔も お出になられてて

お店 リサーチしづらくなったりは
しないんですか? 今。

植野さん来たから ちょっと
気合い入れないと まずいぞ的な…。

僕は 残念ながら
そういうことがよくあるので…。

まあ 正直 そうなんですよね。
もちろん リサーチとかは

我々 「試食」と言ってるんですけど
それは もう スタッフには

基本的には任せてるんですけど。

あっ 任せて やっぱり その…。
任せてますね。

取材を お願いしたりした所に こっそり
一人で行ってみたりとかですね

まあ ちょっと
いやらしいこともするんですけど。

へえ~…!
僕 本当に…

いろんな要素があるんですけど

一番 正しいのは…
正しいというか 分かりやすいのは…

そうですよね。
分かりますよね。

おいしい店から
出てきた人っていうのは

にこにこしながら出てくるんですけど

中には 出た瞬間に「フッ…」って こう
疲れた顔する場合もある…。

まあ 自分でもあるんですけど
それは だから… おいしかったけど

何か ちょっと こう
疲れる店だったとか

おやじが うるさかったとか
何かあるんですけど 本当にいい店って

やっぱり 出てからも にこにこ顔が
ずっと続くじゃないですか。

映画館も そうじゃないですか。

前の回の客 「いや これ 見ないほうが
いいかもしんないな」って思うような…。

「何か もう 怒ってるよ これ」
っていうのは感じるし

やっぱ そこが 一番ね
ダイレクトに もう…。 そうですよね。

1962年 栃木県で生まれた植野。

「食」が いつも身近にあった。

焼きそば屋だったんですよ。
「食」じゃないですか。

もろ「食」。 自家製麺の焼きそば屋で…。

ええ~!
あの… まあ 祖父が始めて。

父親は新聞記者だったんですけど

新聞記者を辞めて 後を継いで

粉から自家製麺で…。

何だ もう ルーツ聞いただけで…
新聞記者と焼きそば屋が…。

何か… 今… 今の植野さん…。

あっ こんな分かりやすい話
ありますか?

もう これで。 ご両親が…。

そう言われてみれば
焼きそばと新聞記者 合わせると

こうなるんですかね?
いや なったんですよね だから。

あっ そういうものですか…。
焼きそばを新聞紙で包んでるみたいな…。

いや それは
ちょっと よく分かんないですけど…。

子どものころの
要するに 原体験としてあって

おやじは新聞記者で 記事 書いて…。

そうですね。 子どものころから

父親が新聞記者のころから
安月給だったんですけど なぜか こう

いいものを食べさせてくれたというか
時々ですけど。

宇都宮だったので…

ああ~ そうなんですか。

ここから… その東京の洗礼を
受けてきたんですね。 そうですね。

じゃあ 実は この浅草が

植野さん 初めて 東京に降り立って
初めて食べたのは ここ?

へえ~!

今 何か 自分でも分からなかったことが
今 まとめていただきまして…。

ああ~…。
ありがとうございます。

そうかもしれないです。

大学を卒業後
経済系の出版社に就職した植野。

根っからの
おいしいもの好きは変わらず

給料の大半を 食べ歩きに つぎ込んだ。

「食の感動を
たくさんの人と分かち合いたい」。

29歳のとき フリーライターとして
食の雑誌に寄稿を始めた。

ペンネームは「大石勝太」。

「おいし かった」。

そして 38歳のとき
ついに 現在の編集部に転職。

食専門の編集者としての道が定まった。

グルメライターと
経済誌の記者っていう

その 何か こう…
ここの距離感というか

そこは やっぱり 当時は
相当 違いがあった…?

財テク誌を作りながら
そっちは 社員として作りながら

いろいろ
食のことを書き始めてたんですけど

ちょっと こう
自分の中でも違和感があり…。

というのは いわゆる その…

言い方は申し訳ないんですけど

「どこの店 知ってるか」みたいな こう…
知ってる店自慢だったり

ああ~…!
「あそこのシェフは何とか」とか

何か こう… 何か あの…

普通に 我々が
食べて おいしいねっていう世界と…。

何か 通の世界ですね。
もう 通好みなというか

そういう人たちのための…。
視点が違うなと思ったんですよ。

で 目指すとこって ここなの?
こういう… 言い方 悪いですけど

こういう人たちの世界の中が
ゴールなの? と思ったとき

違うなと思ったんですよ。

それで じゃあ やるんだったら

ちゃんと
普通のことをやろうっていうか…

経済誌をやりながら
そういうものっていうのは

自分のストック帳じゃないですけども
そうやって こう

何かで どこかで こういう人たちを
何か こう

クローズアップしたものを作りたい
みたいなことで

ず~っと 蓄積が…。
結構ありましたね。

そのころは 本当に もう…

どんなアンテナで拾ってたんですか?
そういうの。

アンテナというか 本当に こう
自分の直感というか…。

もちろん 人から
情報も聞いたりもするんですけど

何か 本当に こう
普通に 町を歩いてて

何か おいしそうな のれんだなとか
何か あのちょうちん

絶対いいよねっていうような感じで
入ること 結構 多かったですね。

それは 今でも 本当に
地方とか行ったら多いんですけど。

16年後
植野が54歳で編集長に就任すると

独自の視点を
強く打ち出し

誌面の改革に取り組んだ。

例えば 山奥で まきを使って
パンを焼いている店の紹介記事。

これは もう 本当に…

今回は こういうテーマなんで。

建物外観の隣のページに パンのアップ。

この写真の並びでは
読者の感情に寄り添えないという。

そこで 植野は 焼き上がったパンを
窯から取り出す瞬間の写真を追加。

完成した誌面からは
まきの香りとパンの温かみが伝わり

店を訪ねてみたくなる。

植野は 創刊以来使われていた
雑誌のコンセプトを

「『食』こそエンターテインメント」から

「『知る』は
おいしい。」に変えた。

「いわゆる グルメの情報を集めただけの
雑誌にはしたくない」。

「おいしいのは もちろん
作られる場所の空気感

料理人の思いを知って
実際に自分で体験してほしい」。

そんな思いが込められている。

食の雑誌を作ってるので

だから その
食の情報を伝えるっていうことは

何か こう お店のシェフが
どういう経歴だったとか

どういう素材 扱ってるか
っていうことではなくて…

例えば この水口食堂だったら
お品書きが すごいですよね。

すばらしいメニューの お品書きが
たくさんあるんですけど

今のマスコミっていうか
情報だと ネットとかだと

「水口食堂に行ったら

名物の『いり豚』という料理が
おすすめです」みたいの出てるわけですよ。

そうすると
それを見た人は

せっかく こんなに こう
迷う楽しみがあるのに

入ってきて 「いり豚
ください」って言って

写真撮って「水口食堂で
いり豚 食べました」って

アップして
終わるわけですよ。

それ すごく
もったいないと思うので。

この…

例えば 植野さんが

ここに最初に入ったときを
覚えてらっしゃいます?

最初に入ったときはね 覚えてますね。
何を食べました?

そこに座りましたね。
そこに座った。
こういうのは覚えてるんですよね。

一人で入って。
迷った? 見て。

見て 迷いました。
迷いましたね。

まず どこに目を向けたんですか?
そうですね すごい 迷って迷って…

ハハハハ…! ハムエッグ?
ハムエッグ。

何でだったんですかね…。

何か 迷い過ぎて。
迷い過ぎましたね。

でも そのハムエッグが

すばらしくおいしいのかと思ったら

すごく普通で。
ここは いいなあと思ったんです。

半熟でも何でもなく
普通に もう…。

適度な普通さがあって。

この店は ありがたいなって。
ありがたいと思ったんです。

「『ふつうにおいしい』すごさを どうしたら
より多くの人に伝えられるのか」。

植野は 去年からテレビ番組にも出演。

長年 地元の人に愛されてきた飲食店を
訪ねる番組だ。

こんにちは。 すいません 植野と申します。
どうも。

お忙しいところ すいません。
お邪魔します。 よろしくお願いします。

ご苦労さまです。

用意… はい!

この番組は 料理人が調理する様子を
植野が見ているだけではない。

自身も厨房に入り
料理の手ほどきを受ける。

この日のテーマは「牛肉の煮込み」だ。

植野が伝えたい「ふつうにおいしい」は

こんなありふれた定番メニューの中にこそ
あるという。

僕が今やってる番組って お店に行って
キッチンに入れていただいて

料理 教えていただくんですよ。

熟練の技っていうのが
もう やっぱ 明らかにあるわけで。

しょうが焼き定食
普通だなと思っても

実は 厨房 のぞいてみると

お客さんが食べやすいように こう

状態によって キャベツの千切りの幅を
ちょっと変えてみたりとか

すごい細かいことを
普通に やってるわけですよ。

エネルギーと労力とか

そういうものが詰まってるっていう
結晶を頂いてる

そこなんだっていうことですよね。

皆さん 大体 何か 聞くと…

…って言うんですけど

その普通のことを
何十年も続けてると

やっぱり それは
一朝一夕では出ない味というか。

正直 僕も まあまあ 料理はするので

それなりには できるんですけど
やっぱり 違うんですよ。

同じ材料で同じように作っても
できないので。

だから そこが どう違うのか
どうすごいのかっていうのを

やっぱり 多くの人に知ってほしいと
思うんですよね。

言葉で言い表せることって
できるんですか?

いろいろあると思うんですけど
分かりやすいのは…

次の日 食べると あれ? これ…

それで お財布にも響かないで。
そうですね。

毎日 来れるってことは…。
毎日 来れる。

言い方 あれですけど 高級レストランで
すごい料理を食べたときに…

まあ 僕も行くし 好きなんですけど…

それはそれで もちろん 必要だし
大切だと思うんですけど

やっぱり 食って 我々の こう
生活… 人生のベースのものなので

何か 毎日食べてもおいしいというか…

「ふつうにおいしい」っていう
価値判断の基準としてですね…

コロッケって
どこの町にでもあるじゃないですか。

日本中 たぶん コロッケのない…

コロッケ 食べたことない人は
いないんじゃないかっていうぐらい…。

安いでしょ しかも。

60円。 ああ~ いい値段です。

肉が… 入ってんのかな?
どうなのかな? っていう…。

子どものころ おいしい…
「牛肉コロッケ」って書いてあって

肉だと思って食べてたやつは
全部 ジャガイモの皮だったんですよね。

ハハハハ…!
皮の部分が丸まってるから

ひき肉に思えたんですけども。

そうじゃなくて
肉の粒が ちょこっと入ってる?

肉の粒が 時々 見えるぐらい…。
時々 見えるぐらい…。

…感じがいいですね。
で 60円ですよね。
60円です。

それが「ふつうにおいしい」
感覚ですよね。 そうですね。

どんなに 肉 ゴロゴロ入ってても
250円とかだったら ちょっと…。

250円は 「ふつうにおいしい」って
言えないなとかっていう。

ですね… そうなんですよ。

値段って… 値段っていうよりも
「対価」というのを すごく考えてて

それは
食とか物だけじゃないんですけど

例えば 本当 映画を見ても これ

1, 500円 安いねっていう映画と
うわっ 高っ! って思う…。

申し訳ございません。
いやいや…!

本当に 謝るしかないんですが もう…。
いやいや…!

俳優と編集者。

表現方法は違えど
食を伝えてきた松重と植野。

改めて 食とは…。

「ふつうにおいしい」…
そんなに お財布が響かないものでも

選択肢としては 日本っていう国は
本当に 豊富にある…。

そういう飲食店にあふれた国だとは
思うんでね。

そこを ちゃんと
大切に守られてるかっていうと

そういうお店も 逆に 何か こう

苦境に立たされて 何か こう…
店がなくなっちゃうっていう悲劇も

僕ら 目にするじゃないですか。
そうですよね。

本当に こう… コロナは 本当 嫌なこと
大変なことばっかりなんですけど…

結局 今の 日本のすばらしい食文化の
ベースって そこだと思うんですよね。

生産者なり調理人なりが

「ふつうにおいしい」っていう現実に
たどりつくまでに

物語があるっていうところに
僕らは惹かれるし。 そうですよね。

その文脈があるからこそ

ああ~ そういうお店だから
こういう たたずまいなんだなとか

ソースの入れ物も
あっ こういう入れ物に

ちゃんと わざわざ入れてあるんだな
とかっていう

何か そういうことを
全部 こう 物語にしていくと

文化になっていくと思うんですよね。

そうですよね。
食べる側も作る側も。

やっぱ そこが ちゃんと…

何か こう 本当に 一過性の

ただ 食べるっていう行為だけに
終わってしまうような気がして。

何か こう 普通にやることのすごさ
みたいなものを 少しでも知ると

いつも食べてるものが
もっとおいしくなったり

もっと楽しくなったりは
すると思うんですよね。

だから そういう手助けとか
そういう伝え方をするのが

我々の ちょっとした役目かなとは
思うんですけどね。

何かね やっぱり…

僕は だから これが たまたま

僕の職に ものすごく密接に
何か 張りついちゃったんですけども

僕にとっては 本当に…
食べることは 本当に

生きるために かけがえのないものだ
っていうふうに思ってるんですけども

どうですか? 植野さんは。

やっぱり
食べるってことを常に意識してるし

食べることで 感じること
伝えること 表現することっていうのを

常に… 何でしょう 意識しなくても

それを もう
ずっと思い続けてしまうので

食べるって何ですか?
って言われたら…

植野青年が そういうふうにきて

この店で まず
ハムエッグ頼んじゃったっていうことが

僕は 究極の答えのような気がしますね。

でも 今 思うと
ハムエッグ頼んで正解だったと思います。

ハハハハ…!

もっと語ってください。
ここでエンドロールが流れますから。

ハハハハ…!
ダ~! って。

語ってください!

ハムエッグの
ハムの見え方とか…。

ハムは
ロースハムですか…?

ハムはね ロースハム
じゃなかったと思う…。

エンドロール流れて…。

この黄身がですね
本当に こう

これが また 全部
きれいに並んでたら

それはそれで
違和感があったと思うんですよ。

理想的だったんですね。

次の番組 いったみたいですね。
ハハハハ…!

OK?
(取材者)はい…!

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