出典:EPGの番組情報
100分de名著 安部公房“砂の女”[終](4)「“自由”のまやかしを見破れ!」[解][字]
もはや外界に出ることを諦めたかにみえる仁木は、ある作業の虜になる。カラスをつかまえるためのワナづくりだ。しかし、その仕掛けは、全く予想もしない機能をもつに至る。
番組内容
仁木が自らの知的能力を駆使して創造したワナは、蒸留水を溜める装置として使えることがわかった。そんな折、女が子宮外妊娠していることが発覚、緊急入院のため女は外へ運び出されることに。どさくさの中で縄梯子はかけられたまま放置。逃亡する最大のチャンスだったが仁木は外へ出ようとはしない。果たして仁木の選択の意味とは? 第四回は、仁木の創造行為や最後の選択の意味を問うことで、自由の本当の意味を考察する。
出演者
【講師】漫画家…ヤマザキマリ,【司会】伊集院光,安部みちこ,【朗読】町田啓太,【語り】小口貴子ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格
テキストマイニング結果
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キーワード出現数ベスト20
- 希望
- 自分
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- 漫画
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- 言葉
- 自由
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- 人間
- 生活
- 彼女
- 物語
- 本当
- 矛盾
解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)
砂の穴に閉じ込められた男は
外に出るという希望を
捨てていませんでした。
しかし その思いとは裏腹に
生活に充実感さえ
感じるようになります。
「100分de名著」
「砂の女」。
男が最後に選び取った答えから
本当の「自由」とは何かを探ります。
♬~
(テーマ音楽)
♬~
「100分de名著」
司会の安部みちこです。
伊集院 光です。
今月の名著は 安部公房の「砂の女」です。
さあ 前回 いかがでしたか?
前回 また いいとこで
終わってるんですよね~。
掟を破って 先に読んじゃおうかな
というのと戦いましたけども。
気になりますよね。
何とか我慢しました。
今日で最後ですもんね。
最終回ですね。
指南役 ご紹介します。
漫画家で文筆家の
ヤマザキマリさんです。 お願いします。
お願いいたします。
よろしくお願いいたします。
エンディングに向けて
どう展開していくんですか?
ここまで切迫してきて
一体 この仁木順平は
どこへ行こうとしてるのか
というところですけど。
まあ 大脱走を試みるも 失敗に終わり
生活に やっぱり順応していくしかない
という状況に置かれるというのは
私たちも
この間 読んだとおりですけども
そんな中からですね でも やっぱり
彼は 希望をどこかに託してる。
彼の希望というのは何かというと
やっぱり…
まだ 外に出ようとするのか
それとも諦めるのか。
最終的に ここで自由というものを
どう捉えるようになっていくか。
それが やっぱり この小説全体の
落としどころじゃないかなと思います。
さあ 大脱走を経て
女との砂の中での生活に戻った男。
鴉をとらえるための罠を作る場面から
見ていきましょう。
木の桶を穴に埋め 砂で隠し
干し魚で 鴉を引き寄せ
桶の中に落とすという
単純な仕掛けでした。
一方 女は内職を始めました。
来る日も来る日も
糸に ビーズ玉を通す作業に打ち込み
ラジオを買うために
貯金をしていたのです。
ある朝
「漫画雑誌」の差し入れがありました。
男は それを読んで 胃けいれんを
起こしそうなほど笑い転げてしまいます。
そして 男は 崖の上に見える
乳色の霧の大きな渦に向かって
対話を繰り広げます。
(鴉の鳴き声)
しかし 仕掛けてから
2週間以上たつというのに
罠には 全く反応がありませんでした。
あの罠に 「希望」と付けた その名前の意味
というのは どうお考えなんですか?
まだ 脱出への望みを捨てていないから
希望ということになるんだと思いますけど
やっぱり希望というのは
何か 人を やっぱり わくわくさせる
生きる希望だったり
生きる喜びだったり
そういったものと こう つながってる。
でも ここでは もう本当に…
それを託してるということですよね。
何で 希望という言葉が
生まれたのかなって考えると
それは 多分…
…という思いが生み出す言葉ですよね。
今現在 充実している時に
「希望」なんて言葉
思いつきもしないですよね。 そう。
そうです。
漫画のくだりも よかったですね。
漫画 ものすごい笑ってましたよね。
こうでした。
…と ありましたが。
これ
安部さん自身も そうだったんですけど
漫画というものに あまり好意的なものを
持っていらっしゃらなくて 彼はね。
あの 昭和の学校の先生に
多かったですよね
漫画を めちゃめちゃ敵視するっていう。
そう。
今こそ その クールジャパンの象徴で
漫画って 政府が薦めるみたいな状況に
なってるけど。
そんな理想どおりの自分どころか…
次の あの崖の上の 霧か何かに向かって
話しかけますよね。
あれは何でなんでしょうか。
自問自答で 自分で その考えた
対話だったと思うんですけど
理性が ある種ね
狂気を導きかねないという気配を
ちょっと察してるわけですよ 彼はね。
そういう知的な会話をする相手が
一人もいないんですから 穴の中に。
このことを…
そうです。 だから自問自答するんです。
だから 彼女とは話せないわけですよ。
このままじゃ 俺
どうかしちゃうからっていうんだけど
それも やっぱ…
もう 最終段階でしょっていうね。
あの 最後 寝る時間がやって来た
というのも何か悲しかったですね。
そうね。
でも あれ分かるじゃないですか。
何か 何もできてないのに
ああ また寝る時間が来てしまったって
きっと みんなが経験したことがある
感覚じゃないかと思うんですけど。
それなのに寝なきゃいけない。
あくまで 生きてきたことに関して
意味づけをしたいんですよ 仁木順平は。
俺が生きてきたってことは
俺が生きている意味があるということだ
ということに
しがみつこうとしてるわけですよね。
いや まさに やっぱり僕は
長い思春期の終わりの方に
いろんなこと 考え
いろんなこと 考えて
何を考えても 矛盾して矛盾して矛盾して
ああ…
睡眠が当たり前のことになってきちゃうと
今度 やっぱり脳がね
想像力が どんどんどんどん やっぱり
萎縮してきてしまう可能性もあるし
そこには
ほんとは あらがいたいんだけど
他に やることもないし
寝るしかないということですね。
はい。
さあ精神的に追い詰められている男ですが
このあと 意外な方向に物語は進みます。
女は…
…と言います。
そして 村人たちが
工事現場のコンクリート用に
砂を売っていることを話すと
男は怒りだしました。
一旦 2人は落ち着いたものの
男の理性は その後 崩壊寸前になります。
男は 村人に交渉を始めますが
村人は…。
男女の営みを見せてくれと言うのです。
さほど驚くには当たらないように思った
男は 家の中に居た女を呼びます。
しかし 女は…
…と 激しく拒絶。
崖の上の観衆は
卑猥な歓声であおります。
女は 全身の怒りを込めて
男の下腹を肩で突き上げ
顔面を 拳で何度も殴りつけます。
男の顔は 鼻血と砂で
「土くれ」のようになり
観衆の興奮は しずまっていきました。
男は 塩分を含んだ砂を そんなことに
使えるわけないじゃないかって
ギリギリの知性で言い返すんだけど
あそこ すごいなと思って。
このひと言ですよね。
…って言われて 男が たじろぐ。
上手ですね。 上手でした 今の感じ。
この女というものの本性というのは
ここですよ 全て。
まあ このひと言を言うために
この女というのは
ずっと ここまで
出演してたんじゃないかと思うぐらい。
で この女の言葉の中には とにかく
自分が生き延びることだけを感じた
この圧倒的な利己性が
込められてるわけですよね。
とにかく
自分が生きることを考えるだけで
人間なんていうのは 精いっぱいなんだと。
この 「他人のこと」というのが
「他人」は何かというと 彼女にとっては
村の外の社会のことですよね。
だから まるで この時点で
男の方が他人の目を気にして気にしてと
言ってる方が
加害者的な存在になっていく。
男の方が
むしろ 間違ったことを言っていて…
僕は何か 砂の女が もう1ランク上の
この人 知識人なんじゃないか みたいな
感じがしてきて。
セメント売ったりとかして
政治を ちゃんとやってるから
黙って ついてくればいいんだよっていう
このうそを
信じてるというか
そんなの うそに決まってるけど
そういうことにしておかないとって
思ってるわけじゃないですか。
それを 子どもみたいに指摘して
うっせえなって なるのって
すごいですよね。 そういうことです。
お前 子どもか! この野郎って
言ってる感じですよね。
そんなこと 百も承知だよ
こっちはっていう。 そうそう。
関係ねえんだよっていう
感じだから。 ああ~。
現実的なんです 女の方が。
ねえ。
男なんていうのは やっぱり
都会という社会が作り上げた
一つの この妄想
自由民主主義的なものの中で…
…なんていうことを考えてるんだけど
実際に生きようとなったら
もう そういうことじゃないわけですよ。
理屈の討論で 完全に まさかの…
だから大逆転状態になってるわけですよね
今 ここから。
かなり 負けそうってなったあとも
不思議だったんですけど
「鉢植えを買おうか」みたいなので
ごまかしたのか。
でも 落ち着きますよね あれで。
何でもいいから とにかく
希望にすがりたいんですよ 彼は。
そんなことを さまつな中から
見つけようと思ったら やっぱり 植木。
でも 根を張るというところもね
ちょっと やっぱり象徴的なんだけど。
植木って お前…
いや だからね 植木買うって言った
言った途端に
やった! と
思ったかもしれませんね。
いや ほんと そうですね。
え~ そうかなぁ。
完全に尻に敷かれてるわけですよ。
さっき 「かまいやしないじゃないですか
他人のことなんて」って言った瞬間に
完全に尻に敷かれたわけです 仁木順平は。
逆転したんですね。
まさにだ。
はい。
だからこそ あの村人の
「営み 見せてくれよ」っていう
ちょっと とんでもないのを
意外と受け入れてるっていうのが。
ほんとに どうでもよくなってる
というのもあるでしょうし
野蛮化が進んでるんですよ。
いや ほんとですね。
もう この時点で
この人 何十年 生きてきて…
そこ 大事ですよ。
だって どっちが知的かっていったら
そんなの駄目だって言ってる…
よっぽど節操がある。 そうです。
そんな 人前で あなた正気? って
言ってる この感じ。
大逆転。
大逆転です。
だからね ほんとに
仁木順平の考えなんていうのは
浅はかだなということが
分かるわけですよ。
ここまで聞くと 彼女の視線で
仁木や 村のじじいたちって
嫌なやつだなって 何かこう 敵対関係が
ちょっと変わる このシーンにおいては。
それは 私たちが…
この時点で この砂の女というのは…
さあ いよいよ
物語は クライマックスを迎えます。
男が作った罠 「希望」は
鴉に無視され続けていました。
ある日 蓋を開けると…。
砂の毛管現象によって
地下の水分が
吸い上げられたからに違いない。
研究すれば もっと高性能の貯水装置を
発明することも可能だろうと
男は喜びました。
冬を越し 春を迎えた3月
女は妊娠しました。
しかし その2か月後
下半身を血に染めて 激痛を訴えます。
子宮外妊娠の疑いで
村人たちは 女を病院へ運ぶことに。
迎えが来るまでの間 男は女に寄り添い
腰の辺りをさすり続けていました。
半年ぶりに 縄梯子が下ろされます。
女は
布団ごと サナギのようにくるまれて
ロープで つり上げられていきました。
崖の上に登った男は 深呼吸をします。
しかし 溜水装置を囲う木枠が
外れていることに気付き
修繕するために 男は引き返します。
男の心は溜水装置のことを話したい欲望で
はちきれそうになっていました。
まあ 劇的でしたね
今の このブロックもね。 ええ。
で 水がたまっていたところの
あの興奮の様子から見ていきましょうか。
その発明を とにかく村の人に話したい。
だから最初は このニワハンミョウの
新種を見つけるということが
彼の 旅の目的だったんだけども
自己実現の欲求ですよね。
それが
水をためる装置の研究に変わって
それで 十分に 心が
満たされるようになっていってしまった。
だけど そして それによって
今度 承認欲求が
その 狭い
彼を取り囲む部落の中っていう
条件の中であってもいいや
というふうになっていくわけですよね。
きっと それも理屈での安堵ではなくて
何か心から 何だろう このわくわくは
この充実感は何だろうっていう
感じですね。
これは 「逃げるてだては
また その翌日にでも
考えればいいことである」で終わるの?
本当の最後には これが出てくるんです。
え え ちょっと待って ちょっと…。
文章じゃなくて
これが プリントされてるの?
はい。 失踪届なんですけれども。
斬新な…。
まあ でも安部公房という人は 非常に…
やっぱり こういう終わりは
当時は新しかったと思いますけども。
死亡認定と捉えていいんです…?
死亡認定になりますね。
いなくなってしまった イコール
砂の穴の中に
滞り続けたということになりますね。
え~と これ ハッピーエンド? それとも
バッドエンド? っていう時にね
どっちかに分けちゃったら
面白くも何ともないやと思う。
だから ハッピーエンドや
バッドエンドを展開として
安部公房が考えて 書いた話ではない
ということですね。
「砂の女」というのは…
これは ほんとに
想像力を いろいろ稼働させながら
読まなきゃいけない小説だとは
思うんですけどね。
今の時代に読む意義というのは
ヤマザキさん
どう考えてらっしゃるんですか?
まあ 「自由だ 自由だ」って
今 言うじゃないですか。
どこまで私たちは その意味を理解して
そういったものを求めてるのか
ということを
ちょっと じっくり考えてみた方が
いいかなと思うんです。
じゃあ あしたから あなた一人で
勝手に生きてって下さいといって
どれだけの人が
きちんと生きていけるかって話ですよ。
だから 何か 壁にすがんなきゃいけない。
でも 私たちが一番
すがんなきゃいけない壁というのは…
この 人間という社会の壁というのは…
自分が のしかかってたのに ズルッて
なっちゃう可能性もあるわけですよ。
そういったことを やっぱり冷静に
もう一回 きちんと考え直してみた方が
いいんじゃないかということですよね。
僕は 仁木タイプの理屈屋だから
ちょっと最後に救われたなと思うのは…
僕は すごく ほっとするところで
ゼロじゃなかったっていう。
知識なんか 積まなきゃよかった
理屈なんか なければよかった
ってことではないから。
何か僕は それが すごく好きで。
多分 今後 彼は漫画読むと思うんです。
うん 読むと思います。
私も読むと思います。
そういう人になっていって。
逆 考えると面白くないですか?
あの女性が ラジオを手に入れたあとって
どんな人になるんだろうって。
すごい教養人になったら すごいですよね。
ねえ。
いろんな想像ができるのも
ちょっと面白いですね。 そうですね。
ちゃんとした物語があるってことって
そういうことですよね。 そうです。
自分の中の人間が浮き彫りにされる
という。 そういうことです。
うわ~ でも
これを このあと読める喜びと
読んで 変なもん
俺の中で動き始めるような予感と
いろんなもん あるな これ。
ヤマザキさん ありがとうございました。
こちらこそ ありがとうございました。
ありがとうございました。
♬~
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