100分de名著 エドガー・アラン・ポー(3)“狩るもの”と“狩られるもの”[解][字]…の番組内容解析まとめ

出典:EPGの番組情報

100分de名著 エドガー・アラン・ポー(3)“狩るもの”と“狩られるもの”[解][字]

妻と一緒にかわいがっていた一匹の黒猫。アルコールの痛飲によって精神をむしばまれた男は、その猫を虐待し発作的に殺してしまう。しかし、そこから不気味な事件が展開する

番組内容
男が発作的に殺してしまった愛猫の生まれ変わりのような猫が登場。男はその猫に翻弄され、猫の呪いを受けるかのように破滅していく。執筆当時のアメリカは禁酒運動が盛んな時代。徹底的に欲望が抑圧される社会の中で、いびつにゆがんでいく人間の精神をこの物語は見事に象徴化して描いているという。第三回は「黒猫」を読み解くことで、抑えつければ抑えつけるほどゆがんだ形で噴出してしまう人間の欲望の怖ろしさについて考察する
出演者
【講師】慶応義塾大学教授…巽孝之,【司会】伊集院光,安部みちこ,【朗読】北村一輝,【語り】よしいよしこ,【声】羽室満

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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  19. 伊集院
  20. 可能性

解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)

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数々の文学ジャンルを切り開いた
19世紀の天才作家 エドガー・アラン・ポー。

第3回は ホラー小説の
起源の一つ 「黒猫」です。

酒を飲み 黒猫を痛めつける男。

その振る舞いから
人間が隠し持つ 本質的な「悪」が

克明に あぶり出されます。

両方 読めるからね。
すごいですよね。

20世紀に先駆け 人間心理に着目した
ポーの真骨頂を読み解きます。

♬~
(テーマ音楽)

♬~

「100分de名著」
司会の安部みちこです。
伊集院 光です。

さあ ここまで エドガー・アラン・ポーの
作品 2つ見てきましたけど

伊集院さん ここまで いかがですか?

勝手な先入観で 推理小説みたいなものの
始祖的な方なんだ。

それは間違いではなかったんですけど

割と ありとあらゆるジャンルの才能に
あふれてる人で

後にジャンル分けができてくる みたいな
そういう感じの天才なんでしょうね。

ほんとですね。
ものすごい幅広いですもんねぇ。
うん。

さあ 今回も指南役 ご紹介しましょう。

アメリカ文学者で
慶應義塾大学名誉教授の 孝之さんです。

さん よろしくお願いします。
よろしくお願いします。

今回は 1843年の作品で「黒猫」ですね。

どんな物語ですか?

ポーの創作の黄金時代の
ピークに書かれている

ポーの中でも 多分
最も有名な作品なんですけれども…

だから この怖さを楽しむという点では

現代の あのホラー小説の起源と
言ってもいいと思います。

相変わらず この「黒猫」を
きちっと読んだことはないんですけど

学級文庫にあったような気がします。
何か いくつかの作品が入ってて

子ども向けになってるもんだと
思うんですけど

そんな記憶があるんですけどね。

多分 小学生でも読めるような内容で
ちゃんと「黒猫」 ありますよね。

この「黒猫」では
ポーが いかに人間心理の中に潜む

本質的な悪と取り組んだか
ということですね。

だから やはり作家というのは
本質的な悪を描けるかどうかというのは

一つの試金石だと思うんですけれども

その点においても
ポーは 非常に優れてたと思います。

さあ では 作品読んでいきましょう。
朗読は 俳優の北村一輝さんです。

子どもの頃から 優しく
思いやりに満ちた男。

動物好きだった彼は

プルートーと名付けた
美しい黒猫を愛していました。

妻が そう何度も強調するほど賢い猫で

男との友情は 固く結ばれていました。

ところが 男は ある時 酒に溺れ
常軌を逸した行動をとり始めます。

ある晩のこと 泥酔した彼は
愛していたはずの黒猫を捕まえ

なんと
ナイフで その片目をくりぬきました。

そして あろうことか 猫の首に縄をかけ
木につるしてしまったのです。

黒猫を殺した日の夜
男に 忌まわしい事件が起こりました。

自宅が 火事で全焼。

燃え残った壁を見てみると

奇妙なことに 首にロープが巻きついた
猫の模様が残されていたのです。

(男の悲鳴)

もう 飲まずにいられるか…。

男が酒場に通い続けた ある日のこと。

酒だるの上に
大きな黒猫がいるのを見つけます。

興味を持った男は
自宅に連れ帰りましたが…。

よく見ると
プルートーと同じく 片目がありません。

何より 男を恐怖させたのは
黒猫の胸にある模様。

それは なんと
絞首台の形をしていたのです。

う~ん…。 人間の表層の

人間の表層の心と
奥にある心みたいなものが書かれてる

まだ入り口なんですけど
ちょっと雰囲気がありますね。

妻の言葉で…

で 実際にですね
植民地時代のアメリカで起きた

魔女狩りが モチーフになっている
ということなんですね。

1692年に マサチューセッツ州の
あのセイラムで

白人のピューリタンの家族の
少女たちが

ヴードゥー教の呪術を使って
一緒に遊んでたんです。

それで これは魔女のしわざだと。

それで 19名が絞首刑になったんですね。

実際に 超自然能力 持ってた魔女なんて
一人もいないわけです。

みんな 今でいえば えん罪なんですね。

魔女狩りって ヨーロッパだけかと
思っていたので。

ああ そうですね。
アメリカでも あったんですね。

アメリカ合衆国の原型になる
そのピューリタン社会というのは

やっぱり ピューリタニズムですから

ピューリタンというぐらいで ピュア。
とにかく清廉潔白でないといけない。

そういう思想の下に一種のユートピア的な
共同体をつくってるわけで。

例えば 当時のピューリタンでは
一夫一婦制の

いわゆる 夫婦をユニットにした家族
というのを 必ず持ってなきゃいけない。

独身だったり それから
身寄りがない おばあさんだったり

そういう人たちを みんな
何か 魔女の可能性があると。

ユートピアというのは 何となく
楽園のイメージ ありますけれども

その中の ちょっとでも矛盾があったら
成り立たない世界なので

だから あの ちょっとでも
異端者がいちゃいけないんですよ

ユートピアというのは。

そこから発想を得てるとすると

この彼の 表層的には
すごく いい人なんだけれども。

いい人なんですよ。
いい人ですもんね。 そうそう。

猫を愛してるんですよ。
だけど人間は 中にブレがあるはずで

そのブレを ずっと隠してると

こういうことに なりかねないよ
というのは

そういう二面性の怖さというのかな。

日頃 真面目で穏やかな彼が
猫を これだけの目に遭わせちゃうという。

多分 ピューリタンたちは ちょっとでも
ブレないはずなんですもんね。

そう ブレちゃいけないんです。
理想の社会で。

で そのブレを
みんな隠して 生きてるけど

何かの事情で
ブレ幅が大きくなった時に

「あいつは魔女だ!」っていうことに
なるわけですもんね。 そうです。

でね 原因は すごい簡単なことにあって
これ 植民地時代の初期ですから

実際は その いろんな人たちが
土地の奪い合いをしてたと。

その時に とてもいい土地 持ってる人を
魔女にしちゃえば その土地を奪えると。

うわ~ こわっ。
へ~。

だから ピューリタンの土地転がしとも
いわれてるんですね。

でも何か 少なくとも 少しでも自分の中に
その気配みたいなものを見せたら

何されるか分からないっていうことが

ストレスを
どんどん ためていくってことだから

そうすると
この主人公の追い詰められる感じ

知らない間に追い詰められてる感じは
すごい分かるような気がする。

あと私 もう一つ気になったのが
この2番目の黒猫。

この模様ですよね。

この絞首台の模様というのは
何を表して 書いてる…?

絞首台の模様があることで

動物虐待を行った主人公の男の その罪を
この2番目の黒猫は分かっているぞと。

つまり
密告してるという効果があるんですね。

だから 人というのはね いろんな模様に
読み込んじゃうでしょ いろんなサインを。

この模様というのは
自分の罪も思い出すし

それから
自分の未来も暗示してるんじゃないか。

ああ~。
は~…。 いや これは
ポー 天才的だなと思うのは

これは 錯覚なんですよっていう
軸で見ると 逆に

彼が どんどん追い詰められてくとこが
怖いじゃないですか。

で これは本当に その表れなんですよ
というふうに見ると

もう オカルトとして怖いじゃないですか。
そうですよね。

その 怖さの二刀流が…。
両方 読めるからね。

すごいですよね。
両方でも 成り立ってるじゃないですか。

さあ じゃあ 物語の中の男は
その後 どうなっていくでしょうか。

続き 見ていきましょう。

酒場で拾ってきた黒猫に
嫌悪と恐怖を感じ

男は ついに斧で殺そうと決意しますが…。

(猫の鳴き声)

妻が 黒猫をかばいました。

その様子を見て 男は怒り狂い

なんと 猫ではなく
彼女を殺してしまったのです。

しかも 男は その犯罪を隠すため

地下室の壁に
妻の死体を塗り込めてしまいます。

なぜか 黒猫の姿は消えていました。

事件から 4日目。 警察による家宅捜索が
入念に行われましたが

妻の死体は見つかりません。

勝利を確信した男は
警察に 思わず こう言い放ちます。

そして 男は
妻の死体が塗り込められている部分を

つえで たたきました。

すると…。

(叫び声)

壁の中から 叫び声が聞こえてきたのです。

警察が 壁の中にある妻の死体を発見。

その頭上には…

あの黒猫の姿があったのです。

すごい怖い話ですね。
怖いですね。

ここに出てくる 「天邪鬼」というのが
キーワードになるんですね 先生。

理性では
やってはいけないと分かりながら

本能的衝動によって やらかしてしまう。

無意識の中に いろいろ
えたいの知れない欲動があって

ひょっとすると それが人間の意識を

かなり
制御してるかもしれないというのは

20世紀に入って 知られる

フロイトの精神分析理論ですよね。

でも ポーは 19世紀の前半に

そういう フロイトの理論を
先取りしてたんじゃないかと。

だから 冒頭の言葉で言うと
推理小説の始祖どころの話じゃなくて

下手すれば 心理学のとか
犯罪心理学の始祖でもある可能性

かなり根元にいる人の
可能性もありますね。 ええ そうですね。

何で それができたんですか? ポーは。

ポーの人生そのものも その意味じゃ
天邪鬼と悪循環に満ち満ちてた。

ポーは 頭は非常に良かったので

16歳で
バージニア大学に入学してるんです。

ところが 体質的には弱いのに
やっぱり お酒を飲むんですよ。

それから ギャンブルで借金しちゃう。

ポー自身の言い分では 養父が
あんまり お金をくれなかったので

それで
いわゆるギャンブルで稼ごうとした。

で 養父の方は
ますます怒るという悪循環。

実の親もですね だから お父さんが
とにかく行方不明になっちゃった。

それから お母さんは
不倫疑惑があったりしたわけです。

で それを どうも養父のジョン・アランが
ポーを育てながら

何か 怒ったりする時に
ネチネチと 嫌みで言ってた。

だから ひょっとすると
そういう関係性の中に ポーは 何か…

…ということを
見てとったのかもしれないです。

お酒も ギャンブルも
ほどほどに たしなむ分には

何か 人間には必ずできる
ゆがみ みたいのを

上手に緩和してくれるものなんだと
僕は思うんですけども

ポーの中には なかなか
そう分かっているけど

そこで止められないってもんがあって

ポーは いや 俺だけじゃないはずだ
っていうのもあって。

何でしょうね
それを作品にして出す感じの

お前らも そうだろう?
っていうことや。

そうです 読者はね 思い当たる節があると
僕 思っちゃうんですけどね。

大なり小なり あると思うんですよ。
そうそうそう そうですね。

私もね そんなに カロリーとらない方が
いいって分かってるんです。

いや でも ダイエットを
ストイックに やればやるほど

どっかで
今日 めちゃめちゃカロリーの高い

ある意味 体に悪いもの
食いたいっていう日ができるとか。

だから すごい これね 高度な

すごく高度な
読者の巻き込み方っていうか。

もう一つですね 歴史的背景として
禁酒運動というのがあったんですね。

そうです。 これは ちょうど ポーが
この作品を書いてた頃

1840年代の前半に

ワシントニアン禁酒運動
というのが盛んになってました。

酒というのは 人間を堕落させる
悪の手先だというふうに

考える風潮があって

元アル中だったような人たちが
禁酒運動に走る。

でも それが行き過ぎて

酒を楽しんでる
単純に楽しんでる人たちも抑圧しちゃう。

まあ 黒猫を狩った人間がね

逆に 密告されて
狩られる立場になっちゃったように

禁酒運動の方も そういう
非常に逆転の構図があるわけです。

で その逆転の構図として
この「黒猫」の中で すごい興味深いのは

いい人が表層で
奥に 何かその残虐性を持ってた人が

多分 闇に飲み込まれちゃうというか

最終的に 奥さん殺して 埋めたことが
完全犯罪になりそうな時に

もう 闇の方が表層になってくと

今度は その奥の方に押し込められてた
ある意味 正義感というか

ある意味 まともな心が
白状したくなっちゃうって。 そうです。

この天邪鬼の… 天邪鬼の
何ていうのかな 逆転現象っていうか

一筋縄じゃいかない 天邪鬼。
そうですね ええ。

あれ 確かにそうですよね。
だって 自分で隠して 塗り固めたものを

自分から 暴きたくなるっていう。
ねえ。

そこをたたき始めるっていう時の
何か その心理の奥にある

俺を捕まえてくれ じゃないけど
俺は悪い人間なんだ みたいな。

これも奥深いわ~。 すごい奥深い。

では 禁酒について
ポー自身は どうだったのでしょうか。

VTR 見てみましょう。

東京・三田にある 慶應義塾大学。

ここに
エドガー・アラン・ポーの人生にまつわる

貴重な品が残されています。

古い 開閉式のペンダント。

その中には
糸のようなものが収められています。

実は これは髪の毛。

ポー本人のものだというのです。

ポーは
「黒猫」を発表した5年後の 1848年

6歳年上の未亡人
セアラ・ヘレン・ホイットマンと交際していました。

当時 婚約者同士は
髪の毛を贈り合う習慣があり

これは その時
ポーが ホイットマンに贈ったもの。

しかし 2人の婚約は破談に終わりました。

その原因は ポーが 禁酒の誓いを
破ってしまったからだといいます。

ポーの人生で その
酒が 身を滅ぼした

クライマックスみたいな
エピソードですよね 今のはね。

彼女の方は ポーが酒癖悪いというのは
知ってたので

とにかく 大事な婚約式なんだから

くれぐれも お酒を飲まないで来てくれと
懇願したし

それから 誓約もさせたにもかかわらず

当日 ポーは
まあ 酒気帯びで来てしまった。

酒を飲んで 来てしまったんですね。

何かこう聞いていくと 女性にもモテたし
頭も すごく良かったし 仕事もできて

多分 持ってないものないって
言ってよかったんですよね。

なのに それを自ら外れようとしたい
気持ちもあったんでしょうかね。

何ですかね それが そのキーワードの
天邪鬼な気がするんですよね。

その 多大なるプラスの方向への才能と
バランスをとるために

もしかしたら 人間の中には必ず
マイナスの方向への

何かがあるのかなって
ちょっと思ってしまいますね。

持ってる自覚 自分は すごいプラスを
持ってる自覚があればあるほど

マイナスのものも欲しくなるっていうか。

子どもの頃は いい人は いい人
で これは いい者。

悪い人は悪い人 これは悪者
っていうものが多かった気がするんです。

すっぱりね 分かれてて。
すっぱり。

でも 人間なんて
そういうもんじゃないっていうのが

恐らく 子どもも
何となく分かるんでしょうね きっとね。

とりあえず 社会生活をやっていくという
そういう真実をついてますね。

いや~ 伊集院さん 3作目まで
終わりましたが いかがでしたか?

今 世の中が こう SNSによって

正しいことを求められすぎてるって
思うんですね。

要するに まあ あの人は
こういう いい面もあるけど

こういう悪い面もあるよね
みたいなことを 全く許さないっていう。

タレントなんか
分かりやすいんですけども

すごく 演技がうまいんだけれども

人間的に こういうとこ
ちょっと外れてるよね みたいなの。

もちろん 度合いはありますよ。

全部 演技がうまいから
何やってもいいなんて思いませんよ。

思いませんけれども 例えば
発言一つにしても 絶対 外れちゃ駄目。

一回 その 勢いで外れた発言をしただけで
抹殺されかねないっていう。

鬼の首を取ったように というやつですね。
はい。

で どんどん炎上してくって世の中は
さっき言ってた ピューリタンが

「こいつ 魔女じゃねえか?」って言ったら
消されるっていうことに。 そうです。

それを考えた時に
もう びくびくしながら 人前で

正しいことをしなきゃいけないっていう
この 圧みたいなものが

この「黒猫」の主人公みたいなことを
起こしちゃうんじゃないか みたいな。

何か そういうゾクゾク感は
僕は すごい持ちましたね。

さん ありがとうございました。
どうも こちらこそ。

ありがとうございました。

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